【ヌーベルバーグ:フランソワ・トリュフォー監督の隠れた名作】トリュフォーの思春期

ヌーベルバーグを代表する監督の一人、フランソワ・トリュフォー。
トリュフォーといえば、「大人は判ってくれない」にはじまるシリーズ作品が代表的ですが、
1976年に公開された「トリュフォーの思春期」は、子供ならではの感性や可愛らしさを巧みに描いた名作です。

トリュフォーの思春期(1976年)

思わずクスッっと吹き出してしまう名シーンがたくさん登場するトリュフォーの作品「トリュフォーの思春期(1976年)」。
フランスの真ん中にあるティエールの町を舞台に、
夏休みを目前に控えたティエールの子供たちの学校や家庭での日常を描いた作品。

子供たちならではの目線で、迷ったり、悩んだり、勇気を持ったり、哀しかったり…。
そんな夏休み前の子供たちの何気ない日常を、断片的なエピソードで綴った映画です。

ママが目を離している隙に、飼猫をテラスまで追いかけて、10階の窓から転落してしまうグレゴリー坊や。
散髪代を小遣いにしてしまおうと友達の髪をめちゃくちゃに刈ってしまう兄弟。
モリエール「守銭奴」の朗読の授業では、先生に何度注意されてもいやいや棒読みをしていた少年が、先生が用事で教室を出た途端、舞台役者さながらに台詞をみんなに披露したり…。
身体障害者の父親と二人暮しのパトリックは、美容院を経営している旧友の美しいお母さんに密かに恋焦がれ、
こつこつ貯めたお小遣いでバラの花束を持っていったはいいけれど「お父さんにお礼をいってね」と勘違いされて、がっくりしたり……。

などなど、愛おしいエピソードがたくさん。

そんな中、児童虐待についても描かれています。

夏休みを前にした身体検査で、ジュリアンの全身に虐待を示す痣(あざ)があることが判明し、
母と祖母は警察に連行され町は大騒ぎになります。

単に子供らしさを描き、観るものをほのぼのさせてくれるような作品ではなく、
トリュフォーは、子供たちの表も裏も描いています。

子供が生まれ、親としての愛を噛み締めているリシェ先生が、夏休みを明日に控えた子供たちに、虐待を受けていたジュリアンの事件について語るシーンがあります。

「ジュリアンほどではないが先生も不幸だった。早く大人になりたくて仕方がなかった」
と語る先生の子供時代は、トリュフォーのそれと重なります。

「大人は何でも出来る。不幸なら、よそへ行って新しい生活も出来る。子供にはそんな自由がない。
不幸だから親を捨てるなんてことは出来ない。子供は不幸を親や大人のせいに出来ない。
大人に許されることが子供には許されない。実に不当な仕打ちだ。」

「やがてみんなも子供を持つ親になる。子供を愛する親になれ。子供を愛する親は子供にも愛されるはずだ。
人生とは、愛し、愛されることだ。人間は愛がなくては生きられないものなんだ。」

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いたずらっ子の兄弟の朝食シーン

子供たちの愛おしいエピソードの中でも、本当に可愛らしいシーンがあります。
いたずらっ子の兄弟が、二人で朝食を準備するシーン。
フランスらしく、カフェオレボウルでココアを作ろうとする二人。
ミルクのパックを開けて、顔にミルクを飛ばしながら、楽しそうに準備します。
やっとこさ出来上がったココアを口にして一言、

「エクセレント!」

と満足げに言うシーンがたまらなく愛おしい!

こんな何気ないシーンを演出してしまうトリュフォーの才能に感動を覚えずにはいられません。

「トリュフォーの思春期」
L’ ARGENT DE POCHE
1976年/フランス/105分
監督: フランソワ・トリュフォー
製作: フランソワ・トリュフォー
脚本: フランソワ・トリュフォー/シュザンヌ・シフマン
撮影: ピエール=ウィリアム・グレン
音楽: モーリス・ジョーベール
出演:ジョリー・デムソー パトリック
   フィリップ・ゴールドマン ジュリアン
   リシャール・ゴルフィー
   シルヴィー・グレゼル
   パスカル・ブリュション
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まとめ

ヌーベルバーグを代表するフランソワ・トリュフォー監督の「トリュフォーの思春期」。
子供たちの愛おしいエピソードを通して、愛することの大切さを伝える素晴らしい作品です。